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SMR HDDについてお客様へのHDD関連コラムをご紹介します。

本ページに記載された技術情報は記事が出稿された時期に応じて推奨システムに対する考え方や実現方法が書かれています。
したがって、最新技術でのシステム構築を前提とし、この情報を利用する場合、その記事が時代に沿わない内容となる事もありますので予めご了承ください。

 

近年Shingled Magnetic Recording(以降SMR)方式のハードディスクドライブ(以降HDD)が数多く販売されてきたのでSMRの特徴やメリット、デメリットについて分かり易く解説する。
ShingleとはGoogle翻訳すると帯状疱疹、こけら板などと出てくるが、日本でSMRは主に瓦書き磁気記録方式と言われている。データを記録する際に、瓦のように重なり合わせて記録する仕組みのHDDだからだ。

 

●Trackについて
HDDでは円盤状の記録媒体に図1のように同心円を描くようにデータを記録する。

図1
 

実際にはこの絵よりはるかに狭い間隔で、狭くすることで記録密度を向上している。図1の赤で囲んだ部分を拡大したのが図2となる。同心円をTrackと言い、このTrack自身の幅とTrack同士の幅を狭くし円盤当たりのTrack数を増やすことで記録密度が上がることがわかると思う。(図3)

図2、図3
 

実際にHDDの記録密度を上げるためにはこの半径方向の単位あたりのTrack数(Track Per Inch、以降TPI)を増やすことと円周方向の密度(Bit Per Inch)の両面からのアプローチが必要となるがここではTPIに注目する。
HDDは歴史的に様々な方法でこのTPIを増やし記録密度を向上させてきている。TPIを増やすには書き込み用の磁気ヘッド(以降書き込みヘッド)の書き込み幅を小さくすればよく(図2=>図3)、過去からいろいろな工夫や改善により小さくなってきてはいる。しかしながら一方でそれをコントロールするのは非常に難しい。書き込みヘッドの個体によって書き込み幅のばらつきが大きく、さらにイレーズバンドという書き込みヘッドから漏れ出す磁界により隣接Trackのデータを消してしまう問題が発生するためだ。結果として、もちろんこの問題だけではないが、TPIはある程度のマージンをもって決められる。そうやって決めたTPIであっても書き込みヘッドは書き込み幅のばらつきが大きいためスクリーニングが必要で歩留まりが悪くなる。一方読み出しヘッドは書き込みヘッドと比較すると小さい幅の読み取りが可能でそのばらつきも小さい。

 

●SMRについて
HDDの記録密度向上を妨げる理由の一つにこのような背景があるがこの問題を安直に解決しているのがSMRである。図4は同じTrackを示しているが(分かり易いようにずらして表記している)Trackが重なり合っていることがお分かりいただけ、書き込み幅を小さくしたのと同じようにTPIを増やす効果があることがわかる。SMRとは簡単に言えばこうやって部品レベルの技術を向上させたのではなく、書き込み方を変え記録密度を向上させているのである。
イレーズバンドはTrackの片側にしか影響しないし、TPIは書き込み幅では決まらず書き込みヘッドの移動量で決まることがわかる。(図5の書き込み幅は図4の倍としたが同じTPIとなっていることがおわかりいただける)したがって上述した書き込みヘッドによる書き込み幅のばらつきの許容度は断然高くなりスクリーニングによる歩留まりも向上する。なにより同じ部品を使い(同等のコストで)より高密度のHDDである点は大きなメリットである。

図4、図5
 

注)HDDの磁気記録はHorizontal Magnetic Recording(水平磁気記録)方式からPerpendicular Magnetic Recording(垂直磁気記録、以下PMR)と推移し現在はすべてがこのPMR方式となっているがこれらはHDDの磁気記録の本質的な方式でSMRはこれらと同列で語られるものではない。SMRとの対比としては従来の磁気記録方法(図2や図3で示した)、CMR(Conventional Magnetic Recording)が一般的である。即ちSMRであろうがCMRであろうが垂直磁気記録(PMR)されている。

 

●SMRの問題点
SMRは瓦のように重ね書きしていくことで記録密度を上げているわけだがここで問題が起こる。例えば図6でTrackNからN+3が書き込まれた後に黄色く塗りつぶしたTrackN+2のデータを書き換えする時である。書き込みヘッドの書き込み幅は変わらないので上書きすると図7のようになり隣のTrackを潰してしまうことがわかる。SMRのHDDではデータが順番に上書きされていくので、途中のデータを簡単に上書きすることはできない。上書きはできないけれど書き込みはしなければいけないので動作としてはTrack N+2に書かれたデータは放棄し、書いていないものとして扱い、書かなければいけないデータは他の上書きできるTrackに書き込むのである。(図8ではTrack N+4に上書きデータが書かれている。)

図6、図7、図8
 

ところでこんな事が頻発したらどうなるか?そこら中に放棄したデータが残り、書き込みたいのに上書きできるTrackがなくなってしまうだろう。HDDメーカ毎にいろいろなアルゴリズムを実装して上書きデータに対応しているが結果としては無駄な読み出しと書き込みが発生するため、性能劣化が起こり、やはりCMRとは大きな違いがあるというのが正しい理解だと思われる。SSDも上書きできないという特徴があるので似たような課題はあるがそれはNANDフラッシュの本質的なもので避けることができない。一方HDDはCMRであればそんな課題はないので事情は異なる。

 

●SMR HDDの利用分野
ではSMR HDDに上述のような特徴があることを理解したうえで、どういった用途であれば比較的問題なく使えるのだろうか。
まずランダムに細かいデータを書き込むようなデータベースやデータの更新が頻繁にあり、性能を担保したファイルサーバ用途では使うべきではないと断言できる。一方で連続書き込みをしてまとめて消去するような用途の例えばビデオレコーダや監視カメラの画像保存などであれば後述する十分な評価や状況を認識した上であれば使えるかもしれない。また性能劣化が発生するのがSMRの主な問題なので性能にこだわりのないアプリケーションでも問題はない。

SMR HDDの厄介な点は上述のとおり書き換え(上書き)が発生しない限り(例えば使い始めで空き容量に余裕があるとき)は問題が顕在化しない点である。例えば容量がある程度使われた後に何かを削除した時に問題(性能劣化)が出るのである。SMR HDDの採用にあたり評価をする際にはこの点に留意しなければならない。容量が一杯になるまで、また一杯になった後でも書き込まれるデータパターンが本番環境と近しいもので評価をしないと、いざ使いだして何年か後に性能が著しく劣化するなどという事態に直面するかもしれない。何れにしてもHDDメーカ毎、さらにはモデル毎にSMRのデータ退避、書き込み方法、データサイズおよび処理タイミングなどが異なるので注意が必要である。さらに言うなら同じメーカの同じモデルでもファームウエアのバージョンによっても振る舞いが変わる可能性は否定できない。

 

注)SMR HDD単体であれば性能劣化してもOSからのタイムアウト内に応答できれば応答が遅いだけで済むが、HDD複数台でRAID化した場合は別問題である。RAIDはその性質上、性能や冗長性を担保するために応答の遅いHDDは切り離すのが一般的だからである。HDDに何か問題が内在して応答が遅くなっているのか、上書き操作の過程で余計な読み書きが起こって遅いのか、RAIDコントローラには区別がつかないのである。HDDの応答が遅くても切り離しをしないRAIDコントローラのファームウエアを作ることは容易いが、問題のあるかもしれないHDDを抱えながらデータを保存し続ける事は大きなリスクである。

 

●ドライブマネージドとホストマネージド
ここまで説明したのはドライブマネージドというホストコンピュータからは通常のHDDと同じように扱える(問題点はあるにしても)方式である。一方ホストコンピュータがSMR HDDであることを認識したうえで書き込みデータを作る方式をホストマネージドという。ホストコンピュータといってもハードウエアではなくOSやファイルシステムでの実装になるが、書き込みデータをSMR HDDの扱いやすいようにするのである。それが可能になればSMR HDD
のデメリットを最小限にして安価な高密度のHDDを使いこなすことができる。ただし過去のある時期、話題になっていたが未だ画期的なものが出てきていないのが現状である。SMR HDDの振る舞いがメーカやモデルによって異なることがその一因であることは明確である。

 

(2020年4月掲載)