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ヘリウム充填のHDDについてお客様へのHDD関連コラムをご紹介します。

本ページに記載された技術情報は記事が出稿された時期に応じて推奨システムに対する考え方や実現方法が書かれています。
したがって、最新技術でのシステム構築を前提とし、この情報を利用する場合、その記事が時代に沿わない内容となる事もありますので予めご了承ください。

 

HGSTからヘリウムが充填されたハードディスクドライブ(HDD)が6TB、8TB、10TBと順次リリースされていますがHDDの要素技術からヘリウムを充填することでどんなメリットがあるのかをご紹介します。

 

HDDは磁性体がコーティングされたディスク間にスペーサーを挟み複数枚重ねてスピンドルモータにマウントし高速回転させ、その上をアクチュエータの先端にある磁気ヘッドがピポッドを中心として動いてデータを読み書きする仕組みになっています。データはディスクの同心円上に刻まれたトラックに書き込まれますが、データを読み書きする際に磁気ヘッドはディスク上に刻まれたトラックの正確な位置にとどまる事が必要です。近年HDDの高密度化によりトラック幅が非常に狭くなっている(nmオーダー)ため、磁気ヘッドをディスク上の一定の位置に制御する精度向上が大きな課題になっています。また制御の元となるトラックの基準位置情報はディスク上に書き込まれていますがこの精度も重要になります。

 

磁気ヘッドをディスク上の一定の位置に移動、静止させるために基準位置情報を読んでアクチュエータをフィードバック制御するわけですが、制御の精度を阻害する外的要因としてはディスクの平面度、スピンドルモータから出る振動やワウフラッター、スペーサー、アクチュエータアッセンブリやエンクロージャーベースの部品マウント基準位置などの機械的精度、ディスクの回転により磁気ヘッドが受けるフラッターなどがあります。過去に適用された大きな改善はスピンドルモータのベアリングがボールから流体に変わったことです。これによりスピンドルモータから出る振動やワウフラッターは大きく低減されました。またディスクの素材も古くはアルミが使われていましたが、平面度で有利なガラスに変更になり磁気ヘッドに対する外乱を大きく減らす効果が得られました。またスペーサー、アクチュエータアッセンブリやエンクロージャーなどの部品の加工精度向上やエンクロージャーの剛性向上、フラッター抑止のための整流など細かい改善が数多く適用されています。そして出てきたのがこのヘリウムです。

 

ヘリウムは空気に比して分子サイズが小さくその密度は1/10程度です。したがって気体抵抗を低減させフラッターを抑止する効果が非常に大きくなります。気体抵抗が大幅に減るので前述のとおり磁気ヘッドへの外乱を大きく減らす効果がありその位置決め制御の精度が上がりました。また従来のディスクは気体抵抗の影響を減らすべくある程度の厚みを持ったデザインでしたが薄くすることが可能になりました。これまで3.5インチ型のHDDは最大で5枚のディスクしか搭載できなかったのですがヘリウムを充填することで現状7枚のディスクを搭載することが可能になりました。これがヘリウム入りHDDが大容量化できた一番大きな要因で、磁気記録技術を向上させなくても単純計算で自動的に1.4倍(7/5)の容量にすることが可能になる事がお分かりになると思います。過去に磁気記録技術を向上させ記録密度を大幅に上げた事例としてはMR(Magneto-Resistive)ヘッドの採用や垂直磁気記録(Perpendicular Magnetic Recording)などがありますが、近年そのような適用例が乏しい中、大きな磁気記録技術の向上ではなく気体抵抗を減らす事で磁気ヘッドへの外乱を減らし記録密度を上げ、ディスクの枚数を増やし記録媒体を増やす事ができるのでヘリウムを充填、封入することは画期的なアイデアです。また、副次的産物といっては語弊がありますが、スピンドルモータも滑らかに回転するため消費電力も大きく低減されています。

 

HDDにヘリウムを充填、封入する技術はHGSTの特許でヘリウムが漏れ出さないようなエンクロージャーアッセンブリーを実現する為に非常に苦労したと聞いています。一方で、製造過程でのみヘリウムを充填する事は特許に抵触しないようで、その状態で前述のトラックの基準位置情報を書くということはその他のHDDメーカでも実施しておりその優位性は関係者には周知のものと言えます。

 

余談ですが、最近SMR(Shingled Magnetic Recording)という書き込みデータを屋根瓦 のように順次重ね書きする事で記録容量を大きくしたHDDがリリースされています。詳細説明は割愛しますが、重ね書きする事でランダムの書き込みに大きなペナルティが発生します。SSDと同じようにその評価は全面データが書かれた状態からスタートしなければ本来の性能が測れず、ユーザの書き込みパターンを完全に把握できていない限り、ある日突然性能が大幅に劣化するなどの懸念事項があります。また前述のHDDの構造で分かる通り、HDDは全データエリアに容易にアクセスできるというテープストレージと比較した時の優位性がありますが、それを自ら否定しているデザインです。以上の理由より当社は今のところSMRのHDDを採用する予定はありません。

 

(2015年12月掲載)